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人生の時間の使い方

10年近くにおよぶ世界の旅を終えたあと、ある出会いから自然エネルギー分野での起業を提案される。
自然エネルギーを普及するために会社を起こすことは、
金融の時代に感じたモラル的なジレンマがないことに気が付いた。
単なる拝金主義ではない、ということだ。

自然エネルギーの大きな課題は、コストが高いこと。
環境に悪いとわかっていても化石燃料に頼っているのはコストが安いからであり、
高コストの自然エネルギーはほとんど使われない。そこで編み出されたのが固定買取価格制度。
自然エネルギーで作られた電気のみを、優先的に高額で買い取る制度である。
そのコストは当初国民の負担によって賄われるが、普及することによって導入コストは下がってくる。
そして最終的にはグリッドパリティー、つまり「化石燃料よりも自然エネルギーの価格が下がること」を目指す。

10年以上前に同制度が導入されたドイツでは、
すでにグリッドパリティーが達成されているが、日本ではまだまだ遥か遠くにも及ばない状況だった。
そこでグリッドパリティーを目指す自然エネルギーの会社を作ることは、
「コストの削減」=「利益を生み出す」こととなり
利益を出そうとする努力が、社会の利益と一致するのである。
起業する価値がある、と私は思った。

東日本大震災が大きなきっかけとなったことも無視できない。
それまで日本の電力の30%を賄っていた原子力発電所がすべて停止し、
電力のほぼすべてを石油、石炭、天然ガスの化石燃料に依存することになってしまった。
化石燃料はCO2を排出するだけでなく、価格も不安定であり、
すべてを輸入に頼る日本では為替のリスクも膨大なものとなる。
そして将来的には必ず枯渇することは間違いないので、価格もいずれ暴投するだろう。
だからこそ、自然エネルギーへの転換は社会的に急務であるはずなのに、日本では意識がまだまだ薄い。

社会に対する当事者意識の薄さは、自分の人生における当事者意識の薄さとも共通している点でもある。
自分の人生の当事者意識とは、自分の人生を謳歌しようとする、我々が本来「こうありたい」と望むことでもあるが、
それが達成されないのであれば、幸福な人生を送ることも難しい。

自然エネルギーの会社を起業するにあたって、もうひとつのテーマは、「幸福な働き方」を追求すること。
著書を通じてメディアや講演活動をしていたときに、
課題として感じたことがある。私の話に共感してもらった人たちから、
「理論的にはあなたの言うことは正しいかもしれない。でも、明日から自分はどうすればいいのか。
周囲の人間は同じなのだから、自分だけ違う行動をするわけにもいかない」という反応が少なくなかったことだ。

それならば、私が考える理想的な社会に近い環境を会社でできないだろうか。
それは、より人間が幸福になりやすい会社。
会社という小さな規模で試みることで、それが実現されれば、「幸せな働き方」を確立することができ、
社会にも影響を与えることができるだろう、と考えた。

NPOでもNGOでもなく、あくまで株式会社でやることにも意味があると思った。
自らの利益を追求することと社会的な利益の両方を満たすことは可能のはず。
個人のレベルでも、個人の幸福と会社の利益、はては社会の利益のすべてを満たすことは可能なはずである。
いや、そうでなければ、我々は生きている意味も、会社や社会を作る意味もなくなってしまう。
最終的に個人の幸福感に還元されないのであれば、すべての意味はない。

人類は同じである。文化などは誤差でしかない。
我々は地球規模で同じことを求め、同じことを追求しているだけで、
その進む速度と方法がちょっと違うだけでしかない。それを文化と呼ぶにすぎない。
文化よりも大切な、人間ひとりひとりが幸福に生きることが我々の生きる意味であり、
目的ではないだろうか。その目的があるからこそ、手段としての経済活動であり、社会であり、文化でもある。

そんな社会を目指して、現在の会社を経営している。

子供時代は自転車が好きで、小学校高学年から遠出をはじめた。
中学時代から写真を撮るのも好きで、旅をしながら写真を撮った。
中学校2年、駅で野宿をしながら千葉から軽井沢まで自転車で行った。
中学校3年、4日間野宿で房総半島を一周した。
キャンプが大好きで、サバイバル関連の書籍をよく読んでいた。モデルガンも好きだった。

長じてからは格闘技やスノーボードなどのスポーツを極めた時期もあったが、
現在はアルゼンチンタンゴに完全に魂を奪われている。
タンゴは、肉体の鍛錬、音楽性の追求、内面性の表現、他者との肉体的シンクロ、
瞑想のすべてが凝縮されているアートである。

普段から道を歩いているときにはつねにタンゴの歩きを意識し、通勤中の電車ではタンゴの音楽を聴いている。
車に乗れば、タンゴしかかけない。
できれば週7日踊りたいぐらいだが、実際は週に2,3日程度。
海外出張では世界のどこの都市でも夜はタンゴを踊る場所を探し、現地のタンゴ・コミュニティーに入り込む。
アジア大会、世界大会にも参加しているが、それは踊るためのきっかけにすぎない。
目標は、自分だけのタンゴをつくること。

きっかけは旅の途中、アルゼンチンでスペイン語研修を受けていたとき。
アルゼンチンにいるのだから、タンゴでもやってみようか、という軽い気持ちが
すっかり魅了されてしまった。それまでの人生ではダンス自体に一切興味がなく、むしろ嫌いだった。
なぜなら、日本でのダンスの基本は盆踊りやお遊戯であり、決まった動きをみんなと一緒にやることだったから。
アルゼンチンタンゴは、日本の踊りとは真逆の世界に位置している。

タンゴというと、多くの人はアクロバティックな動きをする男女を想像するかもしれないが、
私がやっているサロンタンゴは基本的に人に見せるために踊るものではない。
自分たちが気持ちよくなるために、踊る。そして踊り自体は即興なので、同じ人、同じ曲でも、
その時のお互いの気持ちや体のコンディション、その場の雰囲気によって、毎回違う踊りになる。
男女がハグした状態で、男性のリードで女性が応えていく。
リードのやり方も、身体の重心の移動と、一ミリ単位での身体の動きを使う。
自分と相手の身体の境界線は限りなく消滅するのだ。
つまり、頭がふたつ、身体がひとつ、足が4本のひとつの生き物となり、
その生き物が音楽とシンクロし、即興で旋律を奏でていく。

より高いシンクロを目指すには、男女ともに高いスキルが要求される。
これまで動かしたことのなかった身体の部位にスイッチを入れ、鍛えたことのなかった筋肉を鍛え、
それが無意識レベルに埋め込まれるまでストイックに反復する必要がある。
それもこれも、タンゴという新しい言語を取得するための通らなくてはいけない道であり、
その言語でどれほど流暢にコミュニケーションを取れるか、である。
自分の内面性を、タンゴのステップを通じて言語化するのである。
それは同時に、アートの側面もある。つまり、音楽を通じて自己を表現するのである。

ブエノスアイレスでは、70歳でも80歳でも朝方までタンゴを踊っている人たちがいる。
何十年と連れ添ってきた老夫婦が何十年と踊ってきた踊りは、彼らだけのものであり、他人は絶対に真似できない。
ひとりひとりのタンゴは各自にとって固有のものであり、いかに自分のタンゴを見つけるかが楽しみでもある。

プロのタンゴダンサーは、一曲の時間、つまり3分ほどの間に、
どれだけ自分の人生を表現できるか、で勝負している。
だから、タンゴは、単なる踊りのスタイルではない。タンゴ自体がライフスタイルなのである。

音楽、自分の内面性とステップ、相手の内面性とステップのすべてが100%シンクロすることを目指して、
日々努力している。もし人生をもう一つ与えられたなら、私は芸術家として、
音楽や美術の表現をひたすら追求する人生を選ぶだろう。

世界の旅からの帰国後は、それまでのインプットを社会にアウトプットしようと考え、本の執筆に入る。
2年かけて執筆した『幸福途上国ニッポン』を出版し、本を通じて共感してくれた多くの人々とつながり始める。
それこそが本を書いた意図であり、新しいつながりから何か新しいものを作り出せるのではないか、
という目論見でもあった。

ライフワークは、幸福度の高い社会をつくること。
そのための啓蒙活動として、メディアを通じた情報発信も行っている。
現在はFM横浜とラジオ日本で番組を持ち、人の幸せについて話をしている。
また、現在の自然エネルギーの会社自体が、持続可能な社会実現のための社会活動でもあると思っている。
自然エネルギーは地産地消でもあるので、地域ごとに適する違った方法がある。
そのすべてを提案することができるような会社を目指している。
もちろん、これは日本に限った話ではない。すべてが地球規模での話である。

自分だけが楽しいことで生きるのでは、本当の喜び、つまり幸福には不十分である。
しかし、自己犠牲をして他者のために生きることも、最終的には自分の幸福には不十分。
自分自身が楽しい、嬉しい、という自己満足の延長線上で、
他者を満足させる必要がある。優先されるのは、あくまでも自分。
しかし自分でその満足をとどめるのではなく、自分の喜びを他の人たちとシェアするという感覚である。

著書:
『幸福途上国ニッポン』アスペクト社 (韓国語版が、韓国ペイパーロード社より発行)
共著:
『これからの「教育」の話をしよう』NextPublishing [オンデマンド (ペーパーバック)]
『英語教師は楽しい―迷い始めたあなたのための教師の語り』(ひつじ書房)
出演:
毎週金曜日 25:30~ ラジオ日本(AM 1422kHz)「目﨑雅昭 Happy Wedge」
毎週日曜 21:30~22:00  FM横浜 (FM 84.7kHz)「Baile Yokohama」